ついこの間まで、米が足りない! 米の値段が高い! と世の中「令和の米騒動」でにぎやかだったような気がするが、世の移り変わりは早いようで、いまや米が余ってしまい、米価が低迷している。
例えば、(ちょっと古いデータだが)7月30日付「日本農業新聞」ウェブ版の記事によるとーー
▽米穀データバンクがまとめた7月29日の業者間取引は「全面安」で2万円を割った(記事では何㌔当たりかを明記していないが、60㌔当たりなのだろう)
▽農水省によると、6月の相対取引価格は「全体平均が前月比6%安」
同紙は8月1日付の記事(ウェブ)版で、各地の店頭に並び始めた2026年産米の価格を報告した。関東の大手スーパーでは、宮崎産コシヒカリ(5㌔)を税抜き2,990円で売り出したが、これは「前年より1,200円安く、24年より200円高い」。1年で大幅に値下がりしたわけだ。
最近のデータも見ておく。同紙の9月8日付の記事(ウェブ版)による。
米穀機構が今後3か月(9~11月)の米価を見通す指数(DI)を発表した。全国の生産者や流通業者への聞き取りに基づく数値であり、100に近づくほど「価格が上がる」という見通しが強いことを示す。発表されたDIは18。「過去最低だった前月と同じで、基準値の50を大きく下回る」。
記事では、関連データとして、2027年6月の米の民間在庫量(見通し)をあげている。これは「過去最多の267万~304万㌧」で、米価安定のめやすとなる「180~200万㌧を大幅に上回る」。

要するに、米がものすごく余っているので価格が下落し、今のところ回復の見込みがないということだ。消費者の立場でいえば「お米が安くてうれしい (≧∀≦)」という雰囲気かもしれないが、当然ながら生産地からは採算割れだという悲嘆の声が上がっている。同紙9月11日付(ウェブ版)には「 米農家撤退、過去最多の勢い」という記事も載っている。高齢化、天候不順、資材高騰に加えて米価が大幅下落しては、米農家の撤退もやむをえないのだろう。
消費者、とくに大都会の消費者の間では「お米が安いの大歓迎(*⌒▽⌒*)」という向きも多いだろうし、それも人情としては分かる(実際、私もちょっとそんな気持ちになる)のだが、第一次産業の生産者、それも主食の生産者が減り続け、このまま食糧自給率が落ち続けたらどうなるか。大きな戦争・紛争などで、食糧の国際的な流通網が壊れ、輸入食糧が十分に入ってこなくなったとき、都会人の「食糧はどこかで誰かが作っている。誰かが運んできて店頭に並ぶ。金を出せば買える」という前提が崩れ去る。
そうなれば、SNSで紹介されている♡ステキなお店でおいしいランチ♡をしている場合ではない。髪を振り乱し、鬼の形相でジャガイモや小麦粉を奪い合う流血の惨事がやってこよう。キラキラした都会でとりあえず給料の高い仕事に就き、何とかうまくやっているつもりでも、実のところ「薄板一枚の下は地獄」かもしれない――――。ひとりで勝手にイマジネーションを羽ばたかせ、食糧危機だ地獄だと、話がいささか飛躍してしまったようだ。これはいかん、アタマを冷やし、米をめぐるここ数年の混乱へと話を戻すとしよう。
今年5月末、農林水産省が「令和7年度 食料・農業・農村白書」を公表した。ここで「米の安定供給に向けた対応」という特集を組んでいる。令和の米騒動を総括し、今後に向けた対応も述べている。概要版もあって便利だ。白書に沿って、令和の米騒動の経緯を振り返ってみよう。※わたし、ぽんきちによるまとめなので、詳細は同省のウェブサイトでみてほしい※ https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r7/pdf/r7_gaiyou_all.pdf

<2024年夏から米価が上昇し、高止まりした>
▽2024年夏、生産量が需要量に対して不足し、民間在庫が減少傾向となるなか、南海トラフ地震臨時情報の発表に伴う購買量の増加などをきっかけに、米価が上がりだした
▽上がった米価は9月に新米が出回りだしても横ばいで推移した。 集荷業者と卸売業者間の相対取引価格をみると、24年産米の価格は前年比で64%上昇していた
▽その後も米価は高止まりし、2025年産米の価格も26年2月時点で前年比44%上昇していた
<米価を下げるべく、政府は備蓄米を放出した>
▽流通の円滑化のため、2024年度から政府備蓄米の一般競争入札による売り渡しを開始した。31万㌧を供給した
▽ それでも米価は高止まり。2025年5月からは、入札でなく随意契約による備蓄米の売り渡しを始めた。28万トンを売り渡した
こうして、放出された米が市場に届くにつれて米があふれる状態がつくり出され、米価は一転下落し始めたというわけだ。
白書には出てこないが、日本農業新聞の過去記事をみると、随意契約による備蓄米の放出に踏み切った当時の農相、小泉進次郎さんは2025年5月に「政治の意思で(米価を)下げる」「(備蓄米を5㌔)2000円台で店頭に並ぶ形で出していく」と述べた。同年6月、米需給を「じゃぶじゃぶにしていかないといけない」「結果責任を負う」とすごい鼻息だった。その言葉通り、今、米需給はじゃぶじゃぶになった。
主食の価格が上がって、消費者の不満や怒りが渦巻くなか、すぐに何が何でも値を下げないといけないという政府の焦りが現れたのだろうか。先に何があるのかよく見きわめないまま、いきなりアクセル全開で爆走するような政策だった。大きく崩れた米の需給バランスが正常化するまで、相当な時間を要しそうである。小泉さんはいつも目ヂカラ満点のりりしい表情で、歯切れのよいことをおっしゃる人だ。現在は防衛相を務め、なお一層のりりしいお姿をアピールしておられる。米にまつわる「結果責任」などどこかに吹き飛ばしてしまったようである。
白書の特集をもう少しみておきたい。農水省は自分たちの対応のまずさを次のように反省している。要点を箇条書きしておく。「 」内は白書からそのまま引用している語句だ。
令和の米騒動に至る過程でーー
▽農水省は主食用米の需要量について「マイナス・トレンド」を前提に需要量の見通しを作成。これを踏まえて生産量についても減少の見通しを作成した
▽実際に生産量は減少した。2023 年産米は高温障害などで育ちがよくなく、精米したときの歩留まりが想定より悪くなってしまった(ただし、農水省はこれをリアルタイムでは把握できず、気づくまでに時間がかかった。その問題は後述する)
▽しかし需要量の方は2023~25年、上記の歩留まりの悪さやインバウンド需要、家計購入量の増加によって増加傾向で推移した。この結果、生産量が需要量に対して不足し、民間在庫が取り崩された。集荷競争が起こって、米の価格が高騰した
▽ところが、農水省では「生産量が足りていると認識」、そのため「流通実態の把握に消極的で」、「マーケットへの情報発信や対話が不十分であり」、「政府備蓄米の放出時期も遅延した」。そうしてさらに米価が上がっていった
米価が上がりっぱなしだ、あわわ、これはまずいと農水省はあわててーー
▽2025 年6月、「新たに生産者の在庫・出荷先・数量の調査等を行うとともに、米の出荷・販売事業者の調査対象を拡大」した(げげっ! 小泉さんが需給を「じゃぶじゃぶにする」と発言したその月に、やっと本格的な実態調査に着手していたわけだ!)
▽すると、2024年産米について、農協系などの集荷業者への出荷数量は前年比に比べ34万㌧減少していた一方、生産者の直接販売等は 49万㌧ ほど増加していた。多様化する流通実態が把握できていなかったことが分かった(そういえば、 昨年春から夏頃、 農家の人と話していたら「 最近、ブローカーが電話してきて、米を売ってくれとけっこう高い値段を提示してくるんだわ」などど言っていた。全国でそんなふうになっていたわけだ。農水官僚のみなさんは、もっと農家の人たちと話をした方がよさそうだ)
▽またこの調査で、高温障害などによって2023,24年産の精米時の歩留まりが 20~ 22年産米に比べて「低かったことが判明」した。「精米ベースでの流通実態も把握する必要」があると分かった(高温で米の生育が悪くなっているという話は日本中の農家で出ていたはずだ。生産現場の声を農水官僚が把握できていれば、もっと早く気づいただろうに)
このように、白書の特集を読むと、農水省のどこがだめだったか、なぜ対応がおくれて令和の米騒動を招いたかを、けっこういろいろと書いてある。何の反省もない組織よりはずっとましだと思う。まずは、米の需給バランスを取ることで、米農家が採算割れにならずに米作りを続けられ、消費者サイドもそこそこ納得できる水準へと米価を持っていくことが求められる。エリートがエリートの責任を果たすことはとても大切だ。農水省のみなさん、現場や市場の声に耳を傾け、実態に即したスピード感のある施策を打ち出し、日本の農業を守ってくださいね♡。(2026.9.16)
